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05 南関そうめん 猿渡製麵所

05 南関そうめん 猿渡製麵所

糸のように細い手延べそうめん
「南関そうめんも、南関町も盛り上げたい」

南関そうめん/猿渡製麵所

熊本県北西部、南関町で作られている「南関そうめん」。その歴史は250年とも300年ともいわれ、江戸時代には藩から幕府へ献上されていました。製法を伝えたのは、旅の僧とも小豆島のそうめん職人ともいわれています。猿渡製麵所の金坂俊祐さんに聞きました。

金坂俊祐(かなさか しゅんすけ)さん
1983年生まれ。福岡県出身。大学在学中に飲食店でアルバイトを始め、ホテルやイタリアンレストランを経て、そば店に勤務。猿渡製麵所で南関そうめん作りを学び、2017年にのれん分けを受けて独立。

江戸時代から続く伝統の技

江戸時代から南関町で作られてきた南関そうめん。明治時代には200を超える製麺所があったといわれ、現在は10軒の製麺所が伝統の味と製法を守っています。そうめん作りの作業は早朝から始まります。

猿渡製麺所の金坂俊祐さん

南関そうめんの特徴を教えてください。

すべて手作業で作り、「白髪そうめん」と「曲げそうめん」の2種類があります。白髪そうめんは3mから4mもの長さになるまで延ばし、両端を切って束にします。曲げそうめんは2.5mから3mの長さになり、半乾きの状態で曲げて束ねます。作り手が違うとそうめんの味も変わります。食べてみると全員違う味がして、面白いですよ。

どのように作るのですか?

2日がかりで作り、生地を一晩寝かせてから、翌日に延ばしていきます。小麦粉と塩、水に、卵を入れるのが猿渡製麺所の伝統です。生地に塗る油は店によって違い、私は菜種油を使います。

南関そうめん(曲げそうめん)の製造工程

〈1日目〉

1. 小麦粉に塩と水を加えてこね、だんご状にして約2時間寝かせる(水回し)。卵を入れるのが猿渡製麵所の特徴。
2. 生地を麺棒でまるく平らに延ばす。
3. 約2cm幅で外側から、らせんを描くように生地を切る。
4. 生地によりをかけながら延ばし、渦を巻くように桶に入れる(中入れ)。油を塗り約2時間寝かせる。
5. 生地をさらに細く延ばし、桶に入れる(より上げ)。油を塗って一晩寝かせる。

〈2日目〉

6. 一晩寝かせた生地を延ばしながら、8の字を描くように2本の棒に掛ける(8の字掛け)。
7. 生地を引いて延ばし、約2時間寝かせる。この作業を2回行う。
8. 2本の棒を使って生地を約3mまで延ばし、干して乾燥させる。
9. 半乾きの状態で端を切り落とし、枠を使って束ねる。

※上記は猿渡製麺所の場合。工程の呼び方や作業方法などは製麺所によって異なる

1本が3メートルもの長さに

昔は冬場に作られていた南関そうめんですが、今は年間を通して生産されています。ゆでてものびにくいコシの強さと、歯ざわりのよさが特徴です。

そうめんは乾燥すると白くなっていく

作業で難しいところは?

難しいのは、やっぱり塩加減ですね。1グラム違うだけで生地の状態がちょっと違う。塩が多いと延びにくく、乾きにくいんです。暑い時期は塩を多めに入れないと生地が扱いづらく大変です。毎日データをメモして、過去の記録を参考にしています。外で延ばすときは、気温や湿度が日によって違うので、毎回「はじめまして」という感じです。今日はどうかな、今日はどうかな、と思いながらやっています。

最終的にきれいな麺になるには、最初からきれいじゃないとだめなんです。水がうまく回っていないと、太さが均一になりません。曲げそうめんよりもさらに細い白髪そうめんは、集中しないと作れません。

おいしい食べ方を教えてください。

たっぷりのお湯でゆでた後、冷水で3~4回、素早くもみ洗いし、冷たい水で締めてから盛りつけてください。 水につけるとうまみが抜けてしまうので、氷水に入れるのはおすすめしません。 冬に作るそうめんは塩の量が少なく、水洗いも短時間で済みます。水温もちょうどよいので、冬のそうめんはおいしいんですよ。

時間が経つと油が抜けるので、2年ものがよいといわれます。ただ、あまり古いと風味が落ちてしまいます。曲げそうめんは折ってからゆでますが、作り方の説明を見ずにそのままゆでる方がいるんです。3mもあるので、どんどん引っ張って屋根の上まで届いたという笑い話もあります(笑)。

そば職人からそうめん職人へ

偶然口にした南関そうめんをきっかけに、金坂さんはそうめん作りを学びます。

2本の棒で生地を引きはがすように延ばす「割る」と呼ぶ作業

そうめん作りを始めたきっかけを教えてください。

約9年間、そば店で働き、独立を考えていたころに、母方の祖父が亡くなり、初盆の席で南関そうめんを食べたんです。おいしいなあと思って母に聞くと、遠い親戚が作ったものだと分かり、訪ねていきました。

それが猿渡製麺所の故井形朝香さんですね。

私の母の旧姓は猿渡で、師匠は遠い親戚に当たりますが、その時まで会ったことはありませんでした。店は師匠とご主人のお二人で、それまで働いていた方が辞めたばかりでした。短期間でよいので勉強できればと思っていたのですが、店を手伝いながら修行することになりました。

体験のつもりが修行になったんですね。

弟子にしてくださいとも言わないまま弟子になった感じですね。そうめん作りは奥が深く、すべての作業が面白いです。1日1日、作業がちょっとずつ違い、塩の量が違うと工程が変わってきます。師匠は口では教えないタイプ。体で覚えていて、言葉では説明できないそうで、コツをつかむまで苦労しました。1年を通して作業を経験し、次の1年はその確認という感じで、2年間修業しました。

修業を終えて、独立することに。

初めは勉強のつもりでしたが、どっぷりはまりました。師匠も「店の名前はどうすっとね?」と、私が店を出す前提で話されるんですよ。私もこれはそうめん作りを続けなければと思うようになって(笑)。1年ほど経ったときに師匠から「よかったら猿渡製麺所をもらってくれんね」と言われ、のれん分けを受けて独立することになりました。

そば職人からそうめん職人へ。思いがけない転身ですね。

手作りのそうめんはあまり知られていないので、手延べそうめんは、そばよりも珍しいんじゃないかと思いました。そば打ちの経験も役立ちましたが、根本的なところで違うので、両方一緒にすると混乱します。そこで、そうめんだけでやっていこうと決めました。

名前を受け継ぐことになり、どう思いましたか?

猿渡製麺所は師匠の祖母に当たる方が始めた店です。私の名前をつけた製麺所なら、今までの経験を生かして、師匠に教えてもらったそうめんを自分のそうめんに変えられるんですよ。でも名前をもらったので、今までの作り方を変えることができなくなりました。変えてしまうのが怖いというか、変えない方がいいと思っています。師匠に対しては感謝しかないですね、技のすべてを教えてもらいました。

南関町の魅力も伝えたい

猿渡製麺所には全国から多くの注文が寄せられています。

束ね枠を使って麺を曲げる

課題を感じていることはありますか?

すべて手作業なので、2日で200束ほどしか作れません。手伝ってくれていた母が来られなくなり、生産量が減ってしまいました。今後は従業員を増やすことも考えなければと思っています。

そうめん作りを始めて、うれしかったことは?

修行中は近くの町から通っていましたが、独立を前に南関町に移り住みました。製麺所のことを知ってらっしゃる方も多く、南関の人とも仲良くなれたのがうれしいですね。小学生や中学生も職場見学に来てくれます。

伝統の技を受け継ぐことになって

300年続く南関そうめんの伝統を受け継いだので、その製法を守り、未来につなげていきたいと思っています。そうめんを作りたい人がいれば教えますし、外国の方でも興味があれば自分の国で作ってほしいですね。伝統を受け継ぐ人を増やすことも、これからの仕事の一つだと思います。

未来に向けて

南関そうめんを、もっと多くの方に知ってもらう活動をし、南関町の魅力も一緒に伝えていきたいです。南関に住みたい、そうめんを作りたいという方が増えれば、町に活気が出ます。そうめんと町が一緒に盛り上がり、元気のある町になればいいなと思っています。

※掲載の内容は2021年11月取材時点のものです


金坂さんがつくるそうめんは、糸のように細くてきれいでした。麺を細く 長く延ばしていく様子は、まさに職人技。無駄のない動きが美しく、見ていて飽きません。手作りで数が限られるため、売り切れが続いているそうです。

猿渡製麵所
猿渡製麵所からのれん分けし、2017年創業。伝統の手延べそうめんを作り続けています。
店舗販売はなく、オンラインで販売(売り切れの場合は、発売日を設定)。
所在地:熊本県玉名郡南関町大字下坂下2889-1
URL : https://saruwatari-seimen.com/
    https://www.rakuten.co.jp/saruwatari/

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