藁で作った線香花火
「革新的な発想で、伝統を守る」
線香花火/「筒井時正玩具花火製造所」
約400年の歴史があるといわれる線香花火。福岡県みやま市にある「筒井時正玩具花火製造所」では、藁と和紙を使った2種類の線香花火を製造しています。三代目の筒井良太さんに聞きました。
筒井良太
(つつい りょうた)さん 1973年福岡県生まれ。「筒井時正玩具花火製造所」三代目。会社員を経て家業の玩具花火製造に従事。新たに線香花火の製造を始める。花火作り体験のイベントやワークショップなどを企画する他、宿泊施設や併設のカフェをプロデュース。
東と西の線香花火
線香花火は藁の先に火薬を付け、香炉に立てて火をつけて遊んだことが始まりだといわれます。線香花火の火花は人生にたとえられ、その変化に合わせて「蕾」「牡丹」「松葉」「散り菊」と名前がついています。

―線香花火の特徴は?
線香花火は燃焼して火の玉ができ、火花が変化していく。他の花火は燃焼するだけで終わってしまいます。そんな不思議な現象が起きるのは、線香花火だけです。
―線香花火の魅力を教えてください。
魅力はやっぱり、不思議な火花を出すこと。その時その時の出会いというか、予測できない火花が出る。風や湿度、持ち方によっても変わり、火をつけてみないと分からない、そういうところが魅力ですね。
―2種類の線香花火を作っているそうですが。
昔は東と西で線香花火の形状が違っていました。西日本は米作りが盛んで藁が豊富にあり、藁を使った線香花火は、関西地方を中心に親しまれてきました。関東地方では紙漉きが盛んだったため、和紙で火薬を包んだ線香花火が主流になり、これが全国に広まったといわれています。
―遊び方に違いがありますか?
藁の線香花火は火先を上向きに持ちます。風がある方がきれいに火花が咲きます。紙の線香花火は下向きに持ち、風を避けて遊びます。同じように変化していく火花を楽しめます。
―原料には何が使われていますか?
松の根をいぶして作った松煙(しょうえん)が主原料で、硝石と硫黄を配合して火薬を作ります。原料の配合で火花が変わるため、ベースを何パターンか作り、割合を変え、調整していきます。線香花火の火薬は熟成させた方がよいので、配合して1年くらい寝かせます。
普通の花火はこんな火花が出るだろうと予測して作ることができますが、線香花火は予想がつかない。自然のものが原料なので調整も必要だし、1年くらいに先に使うので状態も変わります。他の花火と違って線香花火には湿気を調整する力があるので、適切に保存すれば、10年、20年経ってもきれいに火花を出すんですよ。
線香花火の伝統を受け継ぐ
外国産の安価な花火が広まり、国産の線香花火は希少な存在となりました。

―「筒井時正玩具花火製造所」について教えてください。
祖父が昭和4年(1929年)に創業し、玩具花火(おもちゃ花火)の製造を始めました。以前は同じ地域に花火屋が6軒あり、打ち上げ花火と玩具花火を作っていましたが、今では当社だけになりました。安価な輸入商品との価格競争で打撃を受け、廃業に追い込まれたところが多いです。
―線香花火を作るようになった経緯は?
昔は全国で作られていた線香花火ですが、一時は生産が途絶えかけ、現在、日本では当社を含めて4社が紙の線香花火を作っています。藁の線香花火を作っているのは、唯一私たちだけですね。
私は工業系の高校に進み、自動車関連の仕事を経験してから家業に就きました。福岡県八女市にあったおじの会社が、当時、国産線香花火を作る最後の一社で、廃業する時に技術を覚えておいたほうがよいと勧められ、学びました。もっと良い火花の咲き方を追求し、原料や火薬の量などを見直して、一から製造を始めました。
―藁の線香花火は冬に製造するのですね。
気温・湿度が低い冬の天候を利用して製造します。藁に火薬をつけるのは冬だけの作業で、2~3月の晴れた日に行います。
―原料の藁作りも行っているそうですが。
原料が手に入りにくくなり、藁作りから始めることにしました。米作りは農家に委託しています。藁を長い状態で乾燥させて保管し、一本一本引き抜いて、芯だけを使用します。米から線香花火が作られることを子どもたちに知ってもらえるように、「田植え・稲刈り・スボ抜き」のワークショップを行っています。
尽きることない花火の魅力
「筒井時正玩具花火製造所」では、線香花火の他にもさまざまな玩具花火を手がけています。

―花火作りのどんなところに面白さを感じていますか?
火薬の配合などは化学的な作業で、きれいに燃焼するためにはバランスが大事。きれいな色が出ると、配合が決まってよかったと思うけれど、まだ上があるんじゃないかと試したくなります。
昼間はなかなか集中できないので夜に作業していると、いつの間にか朝になっていたことも。そうやって火薬の配合を突き詰めていきましたね。赤でもいろんな赤があるし、このメーカーの赤がいい、青がいいなど、どの花火会社も研究している。色とか、燃焼とか、花火というのはやっぱり尽きることがないですね。
―商品はどのように作っているのですか?
スタッフは6名ですが、内職や、障害者施設や刑務所への業務委託など、外部の方の力も借りて作っています。新聞紙を巻いて花火の筒を作る作業、色紙をつけて仕上げる作業など、全部手作りです。人手があるから面白い形のものができます。
―デザインやパッケージも印象的です。
商品を手に取ってもらうには、見せ方も重要。夫婦でデザインも勉強しました。信頼できるデザイナーと知り合い、鯨や富士山をモチーフにしたものなど、ユニークな商品も開発しました。デザイン性のあるパッケージにすると、大人も遊べる商品として、贈り物にも使ってもらえるようになりました。
―花火作りで、うれしかったことは?
やっぱり商品が売れるとうれしいですね。ギフトの展示会に初めて出た時に、大手アパレルや銀座のデパートなど、今まで花火を扱ったことがないお店から反響がありました。そういうこだわりをもった店に線香花火が並ぶことになり、「これはいける」と手応えを感じましたね。商品の価値を下げないような売り方も大事だと気づきました。『筒井時正』のブランドができたというのが一番よかったですね。
―製造所にギャラリーを併設した理由は?
花火製造所ってどういうところかなと来るだけでもワクワクすると思うのですが、そこで花火を1本1本選んで買えるようにしたかったんです。昔は駄菓子屋さんで、こういう風に花火を売っていたんですよ。
使命感を持って作り続ける
原料の生産やイベントの企画、宿泊施設や併設するカフェのプロデュースなど、筒井さんの活動は花火作りにとどまりません。

―課題に感じていることはありますか?
今まであった原料が無くなってしまうのは時代の流れです。そうなった時に、どう対応できるかが重要。ピンチはチャンスとよくいうが、無いなら作ろうと、原料の藁を確保するため農業を始めました。そうすると、米作り体験のイベントもできるようになりました。
―伝統についてどのように考えていますか?
昔からあるものを伝え、途絶えさせないためには、革新的な発想を持たないといけない。400年続く歴史がある線香花火は、日本人の心みたいなもの。誰もが知っている花火で、花火の中でも代表的な存在なんですよね。守るためには、昔のまま作るのではなく、続けていくために努力する。原料の確保から取り組み、後世に残していかなければいけないと思っています。
―未来に向けて
花火で遊べる場所が減っています。そこで、花火を手に取ってもらえるイベントや、花火遊びができる場所を提供したいと思っています。花火に触れ、子どもたちに花火の楽しさを知ってもらうことが、これから先、私たち作り手に必要なことだと思います。
―新たな取り組みはありますか?
地域でも過疎化が進み、空き家が目立ち始めています。そこで空き家を活用し、宿やカフェを作りました。線香花火を用意しているので、花火を楽しみ、心と体を癒してもらえたらと思います。この地で花火を作ってきたので、地域の皆さんとの交流も大事ですね。人が生きていく上で、人と人とのつながりが大事だと思うようになりました。
※掲載の内容は2022年2月取材時点のものです
関東と関西で線香花火の形が違っていたということを初めて知りました。今ではここでしか作られていないという藁の線香花火。どんな火花を見ることができるのか楽しみです。




■ 筒井時正玩具花火製造所 福岡県みやま市高田町竹飯1950-1 URL:https://tsutsuitokimasa.jp/ 昭和4年(1929年)に創業し、子ども向け玩具花火を製造。福岡県八女市の線香花火製造所の技術を受け継ぎ、関東・関西それぞれのスタイルの線香花火を作り続けている。
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